国際税務ニュースレター:Appleの節税戦略~ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ

国際税務ニュースレター:Appleの節税戦略~ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ

国際税務ニュースレター:Appleの節税戦略~ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ

国際税務ニュースレター

2014年1月号
今回のテーマ:Appleの節税戦略

~ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ

米国Apple社が採用した「ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ」と呼ばれるグローバルな節税戦略が、
米国IT業界において使われているとされ、世界的に注目を集めています。今回はその戦略について解説します[1]

1 ストラクチャーの概要

Apple社は、法人税率の低いアイルランドに子会社(アイルランド第一法人という、以下、「第1法人」)を設立し、
米国本社が開発する無形資産について、コストシェアリング契約により、費用負担割合に応じた利益をアイルランド法人に移転します。

また、第1法人の管理機能を、タックスヘイブン国である英国領バージン諸島におくことで、アイルランド税法上では、非居住者となり、法人税課税を受けません。
無形資産のライセンス契約においても、使用料課税のないオランダ法人を経由して支払うことで、使用料に対する源泉税が免除されます。
このようにアイルランドに二つの会社をもち、途中にオランダを経由させる戦略は、「ダブルアイリッシュ・ウイズ・ダッチサンドイッチ」と呼ばれています。

DIWDS

2 無形資産のコストシェアリング契約

無形資産を海外移転する場合、税務上は、将来の使用収益から生ずる所得に対応する対価で売却したものと扱われる一方で、
コストシェアリング契約のもとに、共同開発する場合には、権利を共同で所有し、将来収益を費用負担割合に応じて配分することが可能です。

Apple社は、米国で研究開発が行われる一方で、その費用を第1法人が負担することによって、無形資産の米国外の権利の所有権は、
第1法人にあるとされるため、当該無形資産の使用から得られる収益は、アイルランドで課税対象になり、米国法人税率の35%ではなく、
アイルランドの12.5%が適用されています。

3 ダブル・アイリッシュ

名前の通り、アイルランド法人が二つ必要になります。
アイルランド税法上、法人の「税務上の居住国」は、設立場所ではなく、管理支配機能のある場所となるため、
その機能を、英国領バージン諸島(BVI)に置くことにより、税務上はBVI居住法人と扱われ、アイルランドでも米国でも課税を受けません。

この法人が、本社とのコストシェアリング契約により得た無形資産を所有し、第2アイルランド法人(以下、「第2法人」)に使用許諾することにより、
第2法人は、無形資産の使用から生み出される収益を米国を除く世界中から受け取ることになる一方で、支払使用料の損金算入後の所得のみが、
アイルランドの低税率で課税されます。

第1法人が得た使用料収入は、BVIに蓄積させておき、米国において、配当非課税などのタックス・ホリデーが再度利用可能になる機会を待って、所得移転をします。
また、このスキームにおいて第1法人は、税務上は、アイルランド法人ではないため、第2法人が第1法人へ支払う使用料は源泉所得税が課税されます。
そこで次の戦略と併用することにより、より節税効果を増すことができます。

4 ダッチ・サンドイッチ

名前の通り、「オランダ法人を真ん中に挟む」という方法です。
第1法人は、オランダ法人に無形資産の使用許諾を行い、オランダ法人が第2法人にサブライセンスをします。
第2法人はロイヤリティーをオランダ法人へ、そしてオランダ法人はロイヤリティーを第1法人へ支払うことになりますが、
第2法人からオランダ法人へのロイヤリティーは両国間の租税条約により、オランダ法人から第1法人へのロイヤリティは上述したオランダ税制により、
源泉税の対象外となるため、オランダ法人を途中に入れることで節税効果が生まれます。

5 check-the-box(事業形態の選択)条項[2]

米国を親会社とする第1法人に蓄積された所得は、米国におけるタックスヘイブン対策税制の対象となり、米国で課税される可能性があります。
そこで、第2法人をcheck-the-box条項を使って第1法人の支店扱いにしておくことにより、第2法人の実態のある取引が、第1法人の取引とみなされますので、
タックスヘイブン対策税制の適用を免れることが可能です。
また、同じくオランダ法人も支店扱いにすることによって、米国の税務当局からは第1法人以外の取引は見えなくなります[3]

お見逃しなく!

本件M&A実行前及び実行後の形態を比較すると株式交換スキームのようにも見えますが、外国法人による直接の株式交換の可否については会社法上明確になっておらず、
実務上も極めて困難であるため、不確実性を排除する観点から三角合併スキームが選択されているものと推察されます。


[1]  ニュ-ヨ-ク・タイムズ紙の記事をもとにした一部推定が含まれており、実際の事実関係を確認したものではありません。

[2] 米国企業が海外に持つ個々の事業体の税務上の扱いを①パートナーシップ②法人③支店とするかを企業自らが選べる米財務省規則の通称です。日本ではこのような制度が存在しないため、同スキームを日本にて採用する場合にはタックスヘイブン税制の対象となる可能性が高いです。

[3]  第1、第2アイルランド法人、オランダ法人の米国税務上およびアイルランド税務上の取り扱いを整理すると以下のようになります。

アイルランド米国
アイルランド第1法人BVI法人アイルランド法人
オランダ法人オランダ法人アイルランド第1法人オランダ支店
アイルランド第2法人アイルランド法人アイルランド第1法人アイルランド支店
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